女庭訓御所文庫(おんなていきんごしょぶんこ)
下河辺拾水(しもこうべしゅうすい) 画 明和4年(1767)刊 井上文庫 井1864

 「庭訓」とは家庭内の教訓や家庭教育のことですが、本書は女子用の教科書として江戸時代、寺子屋などで使用されたものです。女子向けの寺子屋の中には『源氏物語』を教える女師匠もいました。


 『源氏物語』を読むことは、女性の教養の一つでもありました。初等教育の教科書である往来物にもしばしば登場しますが、具体的には、ストーリーそのものよりも巻名、巻名に結びつく和歌、源氏香、物語の成立事情、紫式部の伝記といった『源氏物語』にまつわる知識が取り上げられることが多かったようです。
 本書は往来物であり、書簡文を主体とした女子向けの教科書ですが、巻頭に「紫式部石山記」(むらさきしきぶいしやまき)として、式部が『源氏物語』の構想を練ったと言われる滋賀県大津市にある石山寺の絵とともに、式部の略伝と物語の執筆の事情が述べられ、続いて「源氏香乃図」と「源氏貝和歌」が掲載されています。
 源氏香とは、種々の香木を焚いて、その香をかぎわけて名を当てる組香の一つで、香の組み合わせを5本の縦線で表し、同じ香りを横線でつなぐことで52の図を作り、これを源氏五十四帖の初帖「桐壺」と最後「夢浮橋」を除いた五十二帖にあてはめて名称としたものです。この模様は、江戸時代一般に浸透し、着物や工芸品、菓子の意匠にいたるまで広く取り入れられました。

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