大芝居繁栄之図(おおしばいはんえいのず)
歌川豐国(うたがわとよくに)(三代)画 安政6年(1859)刊 東京誌料 575-C5
「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」とともに数ある歌舞伎狂言のなかでも人気の高い演目「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の「車引き」という場面を描いた作品です。芝居を楽しむ観客の生き生きした姿を見ることができます。
歌舞伎狂言の名作の一つ「菅原伝授手習鑑」は、右大臣・菅丞相(菅原道真)が左大臣・藤原時平(ふじわらのしへい)の策略によって太宰府へ流罪にされたという史実をもとに、三つ子の兄弟である梅王・松王・桜丸の菅原家への忠節などを描いた作品です。なかでも「車引き」は三兄弟が敵味方に分かれて争う荒事の名場面として有名です。図面に描かれている役者は似顔で描かれており、時平は四代目市川小団次、松王は初代中村福助、梅王は初代河原崎権十郎、桜丸は五代目坂東彦三郎と思われます。しかし出版許可印である改印を受けた安政6年(1859)前後に、この役者たちの組合わせによる「車引き」の上演記録は見当たらないことから、実際に行なわれた芝居を描いたものではなく、見立絵と考えられます。