箱入娘面屋人魚(はこいりむすめ めんや にんぎょう)
山東京伝(さんとうきょうでん)作 歌川豊国(うたがわとよくに)(初代)画 寛政3年(1791)刊 加賀文庫 函50-9
「まじめなる口上」と題した序文ページに「板元 蔦唐丸」として描かれた初代・蔦屋重三郎です。
作者の京伝は寛政元年(1789)、画工を務めた『黒白水鏡』で取締りにかかり過料を申しつけられたため、戯作に関わるのをやめるつもりだったようです。しかし、重三郎が店が急に衰微するゆえ今年だけでも書いてほしいと懇請した結果、長年のつきあいに免じて翻意し、洒落本と黄表紙を書いてくれたという事情が述べられています。重三郎が裃姿でかしこまっているのはそのためでしょう。蔦屋の口上の形ですが、書いたのは京伝本人ということです。
「蔦唐丸」は蔦屋重三郎の狂歌師としてのペンネームですが、重三郎自身は歌詠みは得意ではなく、狂歌連仲間のお付き合いだったようです。画工は当館では歌川豊国としていますが、記載がないため、北尾重政や北尾政美、北尾政演(きたおまさのぶ。京伝本人の画工としての名前)とする説もあります。