見立番付さまざま
見立番付とは
相撲の番付に倣って、あらゆる事物をランキングした一枚物の摺物です。江戸時代の相撲では大関が最高位でしたので、横綱は登場しません。東西の格は相撲と違って東が上とは限らないないようです。中軸の「行司」や「勧進元」には、格付けが難しいものや番外にせざるを得ない特別な大物等が書かれ、当時の人々の意識がわかり面白い所です。作者や板元が架空の名前や不明の場合が多いのは、検閲が無く手軽に作れたことやランク付けの苦情を避けるためではないかと推測されています。
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しょ ばんづけちょう
1帖 加賀文庫117
初めにご紹介する『諸番附帖』は、様々な見立番付50点を直に貼り合わせて折本のような形に仕立てたものです。50点のうち、20点の題名に「浪花」「大坂」「摂津」などが含まれ、大阪でも盛んに番付が発行されたことがうかがえます。年代は不明のものが多いのですが、「天保八」(1837)「嘉永六」(1853)など題名に入っているものもあります。今回は、この『諸番附帖』から4点ご紹介します。(23.0×16.3cm)
1 名産品
だいにっぽん さんぶつ すもう
1枚 加賀文庫117(13)
全国の名産216品のランキングで、土産品の参考にされたようです。東の大関「いづ 八丈嶋[縞](※)」は黄八丈の絹織物の一種です。西の大関「京 羽二重」も上等な絹織物です。他の東京関係産物では東の前頭に「むさし 江戸紫」、東二段目に「同 江戸 浅草の里[海苔](※)」が見られます。勧進元の「大坂 川口大湊」は、船による全国物流の中心である大阪・安治川河口の港を指し、ふさわしい扱いです。(23.0×16.3cm)
※江戸時代の資料には同音の当て字がよく見られます。
2 温泉
しょこく おんせん こうのう かがみ
1枚 加賀文庫117(21)
東の大関は「上州 草津ノ湯」、西の大関は「摂州 有馬ノ湯」で、現在でも人気の温泉です。珍しく番付の東西が地理上の東西と対応しています。題名通り温泉の効能も書かれています。勧進元は「紀州熊野 本宮の湯」、行司は「伊豆 熱海の湯」他。熊野は中世以来の温泉の象徴で、番付の権威づけになったようです。熱海は将軍御用達の温泉でした。このような番付が売れたのも、各地の温泉紀行や医師が温泉の効能を書いた本が出版され、湯治する人が増えたことが背景にあります。(23.0×16.3cm)
3 神社・寺院
だいにっぽん じんじゃ ぶっかく さんけいしょ すもう
1枚 加賀文庫117(28)
全国の神社・仏閣を格付けしています。東の大関は「いせ 太神宮」、西の大関は「紀州 高野山」。勧進元は「出雲 大社」、差添人は「大阪 天王寺」です。温泉や名産品の番付と同じく、江戸時代後期に旅行が流行ったことの証でしょう。関所などで人々の通行を監視した江戸時代でも、「寺社参詣」は旅行の許可を得やすかったようです。(23.0×16.3cm)
4 商売
しょ しょうばいにん しゅっせくらべ すもう
書林兼草紙■屋 大坂心才橋ばくろう町 塩屋喜兵衛板 天保11年11月 1枚 加賀文庫117(30)
もうかる商売の番付です。珍しく板元に実在の大阪の書店が印刷されています。東西表記はなく、東に当たる右側の大関は「米屋」、西に当たる左の大関は「両替屋」です。米は一大産業で取引金額も全商品中最大でした。両替は大名相手の両替商もおり、いかにも商業の都・大阪らしいとも言えます。本来番外のものが書かれる中軸に「御免板木持本屋」と大関より大きな字で書かれていますが、どうやら板元自らの宣伝のようです。(23.0×16.3cm)
洗雲彩霞
せんうん さいか
1帖 加賀文庫403
次にご紹介する貼込帖は『洗雲彩霞』です。加賀豊三郎氏は翠渓(すいけい)と号し、その居宅を洗雲亭(せんうんてい)と称しました。加賀文庫には『洗雲亭...』『洗雲...』と称する資料が何点もあり、これらはほとんど加賀氏が収集物を自ら編集したものです。この『洗雲彩霞』もその1冊で、各種見立番付や吉原の住宅地図のような仮宅細見など60点以上が折本仕立ての裏表に貼り込まれています。巻頭には、これらが入っていた色とりどりの袋も貼られています。(37.0×52.6cm)
5 料亭
おりょうり こんだて くらべ
當世堂板 1枚 加賀文庫403(40)
料理屋の見立番付です。大関、関脇などの位付けはありません。東の筆頭は大音寺前(台東区竜泉)にあった仕出し料理で有名な「田川屋」、西の筆頭は橋場(台東区)にあった料亭「川口」。番付の東西は、お店の場所とは関係ないようです。勧進元は江戸の高級料理屋の筆頭だった山谷の「八百善」等。「東」の「王子 扇屋」と「西」の「日本橋 島村」は現存(※扇屋は卵焼き専門店として)していますし、八百善は通販専門店として生き延びています。(37.0×52.5cm)
6 蒲焼屋
えどまえ おお かばやき
鰻鱣堂/蔵板 嘉永5年(1852)5月 1枚 加賀文庫403(49)
江戸の鰻料理屋だけ205軒も載っている番付です。「江戸前」とあるように当時は神田川や隅田川で鰻が採れたのです。東の大関は「糀町 丹波屋」、西の大関は「霊岸島 大黒屋」。行司は「尾張町 大和田」等全て「大和田」の本支店。大関の丹波屋は廃業しましたが、東の前頭「浅草 前川」と西の前頭「明神下 神田川」は2022年時点でも健在です。東方の左下に、この他にも数多くの店があるので再板するとあり、蒲焼の人気ぶりが伺えます。(52.5×37.0cm)
主な参考文献
【図書】
タイトル / 編著 / 出版社 / 出版年 等 | 請求記号 資料コード |
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番付で読む江戸時代 / 林英夫, 青木美智男編 / 柏書房 / 2003.9 | D/210.50/5144/2003 5007976626 |
大江戸まる見え番付ランキング 番付から江戸っ子の暮らしが見えてくる! / 小林信也監修 / 学研パブリッシング / 2013.6 | T/210.5/5291/2013 7102544660 |
大江戸番付づくし 江戸の暮らしとホンネ / 石川英輔著 / 実業之日本社 / 2001.10 | 210.50/5079/2001 5003370452 |
円楽の大江戸なんでも番付 江戸の暮らし・文化の謎をオモシロ調査! / BS朝日『円楽の大江戸なんでも番付』制作チーム著 / 河出書房新社 / 2016.2 | T/382.1/5094/2016 7106846561 |
相撲見物 バイリンガルで楽しむ日本文化 / 伊藤勝治著, デビッド・シャピロ訳 / 青幻舎 / 2017.9 | 788.1/5164/2017 7109835347 |
温泉の日本史 記紀の古湯、武将の隠し湯、温泉番付 / 石川理夫著 / 中央公論新社 / 2018.6 | 453.9/5048/2018 7110577755 |
全集日本の食文化 第7巻 日本料理の発展 / 芳賀登, 石川寛子監修 / 雄山閣出版 / 1998.10 | 3838/3222/7 1128714343 |
江戸文学地名辞典 / 石川一郎等執筆 / 東京堂出版 / 1973 | R/J033/2A/73 1121598780 |