東京マガジンバンクセミナー「雑誌の未来を展望する」当日の様子
2015年7月11日
「東京マガジンバンク」セミナー「雑誌の未来を展望する‐WEBとSNSでメディアの世界はどう変わる‐」を開催しました。講師は、「誰でもメディア」の名付け親であり、企業のデジタルコミュニケーションを支援する株式会社インフォバーン代表取締役の小林弘人氏です。
講演は、"Rethink the next media"、即ち、会場の皆さんと一緒に、柔らかい頭でメディアの世界を再考しようというコンセプトの下に、すべてがメディア化する時代の情報流通について縦横にお話しいただきました。
また、講演とあわせて講師の著書等の展示を行いました。
当日の講演の概要を掲載しますので、ぜひご覧ください。
1.日時
平成27年7月11日(土) 午後2時から午後4時まで
2.会場
東京都多摩教育センター 301・302研修室
3.講師
小林 弘人(こばやし ひろと)氏(株式会社インフォ―バーン代表取締役)
4.内容紹介(お話しいただいたことの一端を紹介します。)
プロローグ:雑誌とは何か?
雑誌には多様な形式がある。Wikipediaでは、「逐次刊行物であり定期刊行物である出版物の一種」と定義されているが、雑誌の語源であるマガジンは、もともと「倉庫、保管する場所」という意味だった。「雑誌」という呼称は、幕末の洋学者柳河春三が「知の庫(くら)」であるマガジンから名付けたものであり、この「知の庫」の意味のほうがWikipediaの定義よりも、雑誌の本質を捉えている。
雑誌とは紙の印刷物のみを指すのではない。時代とともに、雑誌の定義も揺れているが、「知の庫」はその時代のテクノロジーやライフスタイルと不可分なのだから、その本質と未来について考えたい。
Phase 1:Webとソーシャルメディアの登場でメディアはどう変化したのか。
情報にはフロー(ニュースのように日々流れていくもの)とストック(改訂されないもの、究極は聖書)の2種があるが、時代とともに情報を載せる媒体(メディア)が変わってくる。
メディアの大きな変化は4つある。
一つめは、新しいテクノロジーの出現でフローが高まった結果、メディアの地軸がずれ、それぞれの性質も変化したことである。情報の更新は、昔は新聞が一番速く、書籍が遅いとされており、雑誌はその中間に位置していた。しかし、更新が速いソーシャルメディアの登場によって、新聞の位置はtwitter、facebook、ブログに取って代わられ、求められるものも変化した。かつて新聞には速報性が求められていたが、今ではWeb上の情報の確認と解説が求められるようになっている。
二つめの大きな変化は、「誰でもメディア」化、即ち、様々な個人や企業が自分で情報発信するようになったことである。個人のブログでも、目立てば人が訪れる、メディア企業でなかった会社もメディアになるというようにメディアが非常に潤沢化している。オリジナル情報を集めて再紹介するキュレーションメディアも大幅に増えている。
三つめの変化は、メディアがコミュニティを内在するようになったことである。紙媒体では、読者など、メディアの外にコミュニティが存在したが、デジタル媒体では、メディア内で情報の受け手による意見の共有ができるようになり、コミュニティが内在するようになった。
四つめの変化は、情報があなたを追いかけてくる時代になったことである。facebookが時代を変えた。個人の興味・関心やコメントする友達を強い結びつきととらえ、関係性の強い情報が先に目に触れるようになっている。情報流通は「露出」から関係性にひもづく「強弱」になった。
一方、ソーシャルメディアの登場により、コンテンツのアンバンドル(分解)化が加速し、雑誌やCDなどをトータルで買ってくれる人は減少している。
Phase 2:誰でもメディアの時代とは?
情報を得る仕組みが劇的に変化した。リアルタイムで情報を取得できるようになったことがメディアを変えた。テレビのニュースでもネット上の情報を取り上げるようになり、テレビ局のプロが作った情報と、個人が発信する情報の境界線がなくなってきている。
検索エンジンにより情報のフラット化が生まれている。キュレーションメディア・オウンドメディア・個人ブログ・雑誌社サイト・個人の投稿動画・ソーシャルメディアなど、検索エンジン上では基本的にすべての情報がフラットになる。その結果、注目されることが大事になり、アテンション(注目)資本主義という状況が生まれた。アテンション(注目)をめぐる熾烈な争いが生じ、自社のマーケティングデータと外部のデータを集約しユーザーに届けるプライベートDMP(Data Management Platform)構築の動きが加速している。こうした動きの中で、ポータルサイトは、同じサイトを見ていても、あなたが見ている情報と私が見ている情報は同じではない。すなわち見る人の属性に応じ届けられる情報は変わる。
Webだけではなく、紙媒体のメディアも「誰でもメディア化」が進んでいる。日本では、三省堂に導入されているエスプレッソブックマシーンによって、データさえあれば本のオンデマンド販売ができるようになった。さらに、雑誌もクラウドファンディング(Web上の寄付募集)によって、発刊が容易になり、自分の作りたい雑誌を簡単に作れる環境が整いつつある。
Phase 3:全てがメディア化する時代
メディアとそうでないものの差がだんだんなくなり、あらゆるものがメディアとなっている。アップルウオッチに見られるように、「モノ」がインターネットに繋がることで情報を集め、提供する時代になった。加えて、メディアは利用者のニーズによって、発信する情報の性質を変えていくようになった。
新たな形式のメディアの可能性も広がっている。五感を駆使したメディアや課題解決のためのメディアが登場した。課題解決のメディアでは、課題を提示する人と解決策を示す人の交流がWeb上で発生している。また、自動車をデザインし、プロジェクトチームを立ち上げ、実際に製作する取り組みのような「インダストリアル(工業的)なメディア」、スーパーでスマホを見ながら買い物をする人を生み出したクックパッドのような「人の行動を変えるメディア」も登場している。
こうした世界では経験と思考のプライオリティが上がる。情報の価値は提供する経験に移行している。重要なのは、利用者の経験を「デザイン」すること、即ち、メディアを通して、利用者に多様な経験を提供することである。全てがメディア化する時代において、メディアの資産は、持っている情報ではなく、コミュニティすなわちそこに集う人たちである。情報はコピーすることはできるが、コミュニティはコピーできないものなのだから。
質疑応答
Q1:誰でもメディア化の時代に、どのようなスキルを身に付けるべきか?
A1:小さい頃から情報リテラシーを教えることが必要不可欠。発信者の情報を開示し、情報源を示すという習慣、情報を鵜呑みにするのではなく、自分で真偽を判断する態度を身に付けるべきである。新聞社が情報リテラシー教育のワークショップをしてもいいのではないか。実際に米国では教師が教えきれないICT領域を、民間に委託している。
Q2:情報が追いかけてくる時代では、自分の興味は狭くなっていくのでは?
A2:Webでも、求めていない情報も偶発的に取得できる仕組みができている。問題は、本人次第であり、その点において、リテラシー習得は、メディア・テクノロジーの問題を超えている。
Q3:メディアにコミュニティが内在されると、同じ趣味、好みの人ばかりで固まり、他の人と関わる機会が少なくなるのではないか?
A3:好みが同じものどうしで固まってしまう可能性は高い。むしろ、多様な年齢、バックグラウンドを持った人が交流できるような機会をメディアによって提供するべきである。ソーシャルメディアでは自発的にそのような集団が組成されている。
Q4:地域の問題(畑を荒らす野生動物、観光客のごみなど)解決のために役立つメディアはあるか?
A4:SeeClickFixが使いやすい。また、日本でもいくつかの自治体が頑張っている。住民がパトロールし、問題があったところを報告すれば、登録している住民全体でその情報が共有できるという仕組みがある。
Q5:編集者の役割はこれからどうなるのか。
A5:編集の定義をどう捉えるかが問題。単にひとつのメディア形式に沿ってそれを企画から完成まで行える人というのは狭義すぎる。ニーズを捉え、体験をデザインすることが21世紀の編集者の役割になると考えられる。バックグラウンドは、なんでもよい。ただし、ビジネスモデル構築も視野に入る。米国のICT業界ではアクセラレーターなどと呼称される新職種が、わたしが考える新しい編集者像に呼応すると思う。
会場の様子
展示資料
5.参加者の声
- 雑誌メディアについての先入観が取り払われすっきりした。現在起こっている、新しいビジネスモデルの理解に非常に参考になった。
- 雑誌の定義、すべてがメディア化する、誰でも情報発信できる今の時代について面白く聞かせてもらいました。
- 事例もあり、新しいサービスへのアプローチ提案もありとてもよかったです。