資料保存執行体制検討部会報告書
2007年8月24日更新
(資料保存のあり方)
平成10.3.25[抜粋]
(報告書の詳細は都立中央図書館発行「館報 ひびや」149号に掲載)
はじめに
(略)
資料保存の必要性
都立図書館は、約230万冊の図書、各種の新聞・雑誌、視聴覚資料等を所蔵する日本を代表する公共図書館である。戦災で日比谷図書館が焼失したとはいえ、戦前の資料も他の県立図書館に比較して、多く所蔵している。
都立図書館は、これらの資料を利用して、都内公立図書館との相互協力、都民への参考調査などのサ-ビスを行っている。こうしたサ-ビスの基盤となるのが、「資料保存」である。都立図書館における図書館資料の保存のあり方は、原形で保存することが、基本であると考える。
所蔵するすべての資料をいつでも提供できること、同時に、その図書館資料を都民の文化遺産として、後世に伝えることが、都立図書館の使命である。しかしながら、都立図書館の資料は、外的な要因(保存環境や資料の取扱い)及び内的な要因(酸性紙や製本の方法)によって、劣化や損傷が進んでいる。資料の保存と利用を考え、資料によっては、メディア変換を行うこと、又は代替物により利用に供することも必要である。
劣化し、損傷しつつある多くの紙資料に対しては、いままでのところ、対症療法的な処理での対応が多かったといえる。資料を長期保存するためには、業務量やコスト面からも考慮してこのような「治す」措置より、事前の「防ぐ」措置が有効であることはいうまでもない。
資料保存のため、施設・設備等の環境整備、各種ガイドラインの作成、修復・補修・製本技術の知識の蓄積、脱酸処理技術の導入、資料を傷めない複写機の導入、中性紙の使用推進のPR、保存管理責任者の養成等、これから取り組まなければならない課題は、多い。
また、近年、図書館資料として、レコ-ド、磁気テ-プ、マイクロフィルム、フロッピ-ディスク、コンパクトディスク等、紙以外の資料も増加している。今後、これらの資料についても、その保存方法を検討していかなければならない。
図書館を巡るこのような新たな状況のもとで、資料保存のあり方を確立することは、都立図書館に課せられた緊急かつ重要な任務である。図書館サ-ビスの基盤となる資料保存は、館全体で取り組むべき大きな課題であり、資料収集方針と同時に、資料保存方針を確立し、他の関係機関との相互協力のもとに、組織的に進めていかなければならない。
資料保存の基本方針
- 図書館資料を収集し、現在及び将来の利用に供するとともに、文化遺産として後世に残すため、資料は、原則として、原形保存とする。
- 資料群ごとの保存特性にあった、保存と利用の環境整備に努める。
- 資料の状態、資料的価値、利用頻度に応じて、複本の整備又は電子メディア、マイクロフィルム等適切な代替メディアへの変換を行う。
- 利用に供している資料の劣化損傷が進んで、止むを得ず利用制限が必要なときは、その範囲を最少限度とする。
- 製本業務を館の基幹的業務として位置づけ、その知識の蓄積や技術の向上と継承を目指すとともに、都内他館に対する製本技術の援助を行うなど資料保存の技術・情報センタ-的役割を担うこととする。
- 館に資料保存執行体制を整備し、都内公立図書館及び関係機関と連携、協力し、総合的な資料保存対策を推進することとする。
資料保存の問題と対策
上記の基本方針を実現するため、問題点を明らかにし、その対策として、長期にわたる保存計画の策定、施設・設備の整備、利用のあり方等を確立する必要がある。
1)計画の策定
資料保存は、図書館サ-ビスにとって、資料提供のための基本的な業務である。
したがって、資料保存は、将来にわたって、計画的に実施される必要がある。それは、資料一つ一つの個別的な対応ではなく、資料群ごとにとらえ、体系化された総合的、中・長期的に策定されなければならない。
2)施設・設備の整備
- 温度・湿度の管理(以下、項目のみ列記する)
- 光・照明の管理
- 塵埃・虫害防止
- 防災対策
3)利用の制限
図書館資料は、利用に供することをまず第一義的な目的とするが、一方で資料は、利用と経年により劣化が避けられない。そのため、一部資料については、長期保存の立場から、協力貸出制限や閲覧制限も止むを得ない。また、利用に供する場合も、資料の取扱いや複写利用について、一定の条件を設定する必要がある。
- 協力貸出し(以下、項目のみ列記する)
- 展示用貸出し
- 複写サ-ビス
4)利用者教育
資料保存のためには、利用者の理解と協力が欠かせない。そのため、利用者に対する教育は、継続的になされる必要がある。一般利用者の資料保存についての正しい理解を得るため、劣化本、切り取り本などの資料展示やPR紙の発行等の広報活動を行うこととする。また、協力貸出資料については、区市町村立図書館職員を対象とした研修会を実施するなど、資料保存の啓発に努めていくことが必要である。
- 劣化対策(以下、項目のみ列記する)
- 切り取り本
5)メディア変換
情報化の進展とともに、メディアもまた大きく変わりつつある。印刷物以外のメディアの利用とその保存方法、対策を講じる必要がある。
- 電子出版物の活用(以下、項目のみ列記する)
- マイクロ化計画
- 資料のデジタル化
- デジタル音声情報化
6)保管
(略)
7)保護
- 劣化調査(以下、項目のみ列記する)
- 劣化対策
- 酸性紙による劣化
- 革装本の劣化
- 汚破損による劣化
8)中性紙使用について
(略)
資料保存の執行体制の確立
資料保存部会の検討結果に基づき、都立中央図書館内に資料保存対策に取り組む体制を整備し、資料保存の実現を図っていくこととする。
- 組織の整備(以下、項目のみ列記する)
- 資料保存委員会の設置
あとがき
図書館にとって、資料保存は、資料収集と合わせて、もう一つの柱ともなるものである。この報告書は、都立図書館が抱える資料保存について、その対策を明らかにした。
資料保存のあり方については、たえず検討が加えられなければならないが、本部会の検討結果を十分に生かし、資料保存の総合的な対策が、関係者の努力によって推進されるよう切望し、報告の結びとする。
資料
資料保存の体系
資料保存執行体制検討部会が検討した事項を体系化すると、以下のとおりである。
1.資料保存基本方針の策定
2.資料保存対策の体系
1) | 計画の策定 | 中期・長期計画の策定 |
---|---|---|
2) | 施設の整備 | 温度・湿度の管理、光・照明の管理、塵埃・虫害防止、防災対策(地震、水漏れ) |
3) | 利用の制限 | 協力貸出し、展示用貸出し、複写サービス |
4) | 利用者教育 | 劣化対策、切り取り本 |
5) | メディア変換 | 電子出版物の活用、マイクロ化計画、資料のデジタル化、デジタル音声情報化 |
6) | 保管 | 書架計画 |
7) | 保護 | 劣化調査、劣化対策(酸性紙等) |
8) | 広報活動 | 中性紙使用の普及 |
9) | 修復 | 製本(館内処理、外注処理の範囲)、補修 |
10) | 組織の整備 | 技術指導・助言、研修等専門性の確立 |
3.資料保存の執行体制
- 館内部署の拡充整備(技術職員の確保、技術継承)
- 資料保存委員会の設置