第52弾「江戸の本に親しむ」
2012年11月2日
江戸ブームは今も静かに続いていて、関連の書籍も多く刊行されています。ただ江戸時代に書かれたり出版された本そのものに接する機会はそう多くないでしょう。
今回は、昔の人々の思想や文化の詰まった江戸時代の本とお近づきになるために参考になる図書をご紹介します。
『和本のすすめ-江戸を読み解くために』 中野三敏著 岩波書店 2011年刊
日本人の和本を読む力が落ちていると憂う著者が、「和本リテラシー」の重要性、変体仮名を読むことの大切さを説いています。
といっても、本書は和本を読むためのハウツー本ではなく、和本の歴史や作り方、出版事情、和本にはどんな本があるかなど、基本的な知識の詰まった一冊です。
『こんな本があった!-江戸珍奇本の世界』 塩村耕著 家の光協会 2007年刊
著者が愛知県西尾市岩瀬文庫の全蔵書調査に携わる日々の中で、巡り合った様々な珍本・奇本を図版入りで紹介しています。
「礫渓猿馬記(れきけいえんばき)」はちょっと不思議な雰囲気の紀行文。たとえば黒い姿の何千人もの旅人や薄物の振袖を翻して舞う美女に出会ったりするのですが、これはアリやトンボのこと。実は著者が微小化して、庭園の山水をあちこちめぐる趣向なのだそうです。なんだかSFのようですね。
また、仲間同士が喧嘩を始めたところに行きかかった侍はどう行動すべきかといった、武士の生き方マニュアル「八盃豆腐(はちはいどうふ)」も興味をひかれます。
『江戸の読書熱』 鈴木俊幸著 平凡社 2007年刊
江戸時代の学問や書籍のありかたを、当時の読者や出版流通網の視点から考察した本です。後半で取り上げられている『経典余師(けいてんよし)』、平仮名混じりの注釈と書き下し文を掲載して、「四書」など儒学の経典を自学自習できるように編集したテキストで、爆発的なベストセラーでした。以前は小学校の庭に必ずと言っていいほどあった二宮金次郎の像をご記憶でしょうか。その金次郎が薪を背に読んでいたのもこの『経典余師』だったようです。