第71弾「明治時代の日本旅行記」
2015年8月1日
法務省によると、平成26年末の在留外国人数は212万1,831人で、前年末に比べ5万5,386人(2.7%)増加したそうです。この中には短期滞在者や永住者、日本人の配偶者などの他に、仕事や留学、技能実習などの目的で中長期の滞在をしている人がいます。最近は日本に住む外国人が書いた外国人のための日本のガイドブックが数多く出版され、話題になっています。
明治時代にもお雇い外国人や実業家として外国人が来日していましたが、その外国人が日本の地理や風俗、文化について書いた記録があることをご存じですか。その頃の日本は外国人にはどのように見えていたのでしょう。今回は、明治時代の外国人による滞在記や旅行記などをご紹介します。
「Promenades Japonaises」Emile Guimet & Felix Regamey(G. Charpentier, 1878)
「Promenades Japonaises - Tokio-Nikko」Emile Guimet & Felix Regamey(G. Charpentier, 1883)
『The West's encounter with Japanese civilization, 1800-1940.』 [Vol. 7] [Vol. 8] (Japan Library, 2000)に所収
エミール・ギメ(1836−1918)はフランスの実業家。1876(明治9)年夏に来日し、約3か月間滞在した日本の様子を2冊にまとめています。1巻は横浜、鎌倉、江の島の見聞記等、2巻は東京から日光の紀行を収録。日本の人々の生活や自然の美しさ、美術・音楽に関心を寄せる記述が多く、ともに旅行したフェリックス・レガメーの人物の挿絵が詳細に描かれ、当時の日本人の様子を知ることができます。ギメは蒐集家でもあり、日本でも数多くの宗教画、書物等を収集しました。帰国後はパリに博物館を設立、現在は国立ギメ東洋美術館となっています。
邦訳:『1876ボンジュールかながわ』(有隣堂, 1977)
『東京日光散策』(雄松堂出版 , 1983)
「Unbeaten tracks in Japan : an account of travels in the interior, including visits to the aborigines of Yezo and the shrines of Nikko and Ise」2v Isabella L. Bird(J. Murray, 1880)
『Collected travel writings of Isabella Bird.』Volume 4,5(Edition Synapse, 1997)に所収
イザベラ・バード(1831−1904)はイギリスの女性旅行家。1878(明治11)年に来日し、東京から日光、新潟、東北地方、北海道を人力車や馬、徒歩で旅しています。来日時バードは46歳、背中に持病をかかえ、自然が残る東北地方をすすむことは困難も多く過酷な旅でしたが、日本の自然の美しさや日本人が礼儀正しく親切であることなどに感心したことが繰り返し書かれています。その後関西方面にも旅行し伊勢神宮などを訪れていますが、バードは驚くべき行動力、体力、精神力の持ち主と推察され、この後朝鮮、ペルシャ、チベットなど各地を訪ね多くの旅行記を残しました。
邦訳:『完訳日本奥地紀行』全4巻(平凡社, 2012-2013) など
「A handbook for travellers in Japan」(J. Murray, 1913)
『Collected works of Basil Hall Chamberlain : major works.』 Volume 8.(Ganesha Publishing , 2000) に所収
バジル・ホール・チェンバレン(1850-1935)はイギリスの日本学者。1873(明治6)年に来日、日本語や日本文学等に関する多くの著作を発表し日本における国語学の基礎を築いた人物として著名です。本書は学者チェンバレンが書いた外国人のための旅行ガイドブック。冒頭に日本の気候、言葉、宗教、歴史などが図、表とともに端的にまとめられ、その後旅のルートが86紹介されています。ルート「横浜からの小旅行」の中では、鎌倉は横浜から東海道線で50分、大船で乗り換える、とあり、鎌倉の大仏、江の島など近郊の名所案内がなされます。解説は細かな部分までされており、チェンバレンの自ら旅行した経験と観察力がうかがえます。
邦訳:『チェンバレンの明治旅行案内 横浜・東京編』(新人物往来社, 1988)
『Jinrikisha days in Japan』 Eliza Ruhamah Scidmore. (Kessinger Publishing,[2010])Reprint. Originally published:Harper & Brothers, 1900
エリザ・シドモア(1856-1928)はアメリカのジャーナリスト、地理学者。兄が外交官をしていたこともあり、世界を旅しながら各地の紀行を刊行、日本には1884(明治17)年に初来日し、本書は1891(明治24)年に出版されました。鎌倉、日光、箱根、名古屋、京都、奈良、大阪、神戸などを巡るなかで日本の風俗、行事、人々の日常生活などを紹介しています。シドモアはワシントンD.C.のポトマック公園に日本の桜を植えた立役者として有名ですが、本書でも日本の文化や精神についてふれられ、シドモアの日本人観を読むことができます。
邦訳:『シドモア日本紀行』(講談社, 2002) など